消費税

消費税 軽減税率~中小事業者の税額計算の特例~

こんにちは。渋谷の税理士 吉田です。

今回は軽減税率の導入により、税率毎に売上と仕入に係る消費税を集計することが困難な中小事業者の特例計算について説明します。

この場合の中小事業者とは、基準期間の課税売上高が5000万円以下の事業者となります。

また、この計算の特例は、それぞれ事業者が行っている事業や態様に応じて適用できる特例や期間が異なってきます。

それでは順を追ってご説明致します。

売上税額の計算の特例

税込課税売上げを税率毎に区分して合計することが困難な中小事業者は、税込課税売上の合計額に一定の割合を掛けて軽減税率の対象となる税込課税売上を計算する特例が認められています。一定の割合は、事業者に応じて以下の2パターンがあります。

いずれの場合も、税込課税売上の合計額から軽減対象税込課税売上を控除して10%部分を算出します。

適用対象期間
課税期間のうち平成31年10月1日から平成35年9月30日までの期間

小売等軽減仕入割合の特例

税込課税売上を税率毎の課税仕入れの割合により分ける方法です。

対象業種:卸売業、小売業

税込課税仕入れを税率毎に管理できている中小企業者は、税込課税売上に小売等軽減仕入割合を掛けたものを軽減税率の対象となる税込課税売上とすることが出来ます。

注2)主として軽減対象資産の譲渡等を行う事業者で、小売等軽減仕入割合を算出することが困難な場合は、小売等軽減仕入割合を50%として計算することが出来ます。(軽減税率対象課税売上が全体の概ね50%以上の事業者に限る。)

簡易課税制度の適用を受ける課税期間の場合は、この特例は受けられません。

軽減売上割合の特例

税込課税売上高を一定期間中の税率毎の売上割合により分ける方法です。

対象事業者:軽減対象資産の譲渡を行う中小事業者

こちらも小売等軽減仕入割合と同様で、税込課税売上に軽減売上割合を掛けて軽減税率の対象の税込課税売上げとすることが出来ます。


注3)主として軽減対象資産の譲渡等を行う事業者で、軽減売上入割合を算出することが困難な場合は、軽減売上割合を50%として計算することが出来ます。(軽減税率対象課税売上が全体の概ね50%以上の事業者に限る。)

通常の事業を行う連続する10営業日とは、適用対象期間内の通常の事業を行う連続する10営業日であればいつかを問いません。しかし、例えば、軽減対象商品とそれ以外の商品を販売する事業者が、催し物等の特別な営業により、軽減対象商品しか販売しなかった営業日は、「通常の事業」を行う営業日にふくまれません。

適用対象期間:課税期間のうち平成31年10月1日から平成35年9月30日までの期間

複数の事業を営む中小事業者の場合

複数の事業を営んでいる場合には、その売上を事業毎に区分しているときには、その区分している事業毎に「小売等軽減仕入れ割合の特例」又は「軽減売上割合の特例」を適用することが出来ます。ただし、両者を併用することが出来ません。

また、一方の売上が税率毎に区分出来ているのならば以下のようにする事もできます。

仕入れ税額の計算の特例

税込課税仕入れ等を税率毎に合計するのが困難である中小事業者は、次の方法で仕入税額を計算することが出来ます。

小売等軽減売上割合の特例

課税仕入れを、税率毎の課税売上の割合で分ける方法です。

対象業種:卸売業又は小売業

税込課税売上を税率毎に管理している事業者は、その事業の税込課税仕入れ等に小売等軽減税率売上割合を掛けて、軽減税率の対象となる税込課税仕入れ等を算出して、仕入税額を計算することが出来ます。

適用対象期間
課税期間のうち、平成31年10月1日から平成32年9月30日の属する課税期間の末日までの期間
簡易課税制度の適用を受ける課税期間の場合は、この特例は受けられません。

簡易課税制度の届出の特例

簡易課税制度は、原則は適用を受ける課税期間開始の日の前日までに届出を提出しなくてはなりませんが、今回の特例では、適用を受ける課税期間中に届出を提出すればその課税期間から簡易課税制度を適用できるというものです。

また、調整対象固定資産等を取得したことにより届出の提出を制限されている場合でも、今回の特例では届出を提出すれば簡易課税制度の適用を受けることが出来ます。

この特例の適用を受けるための届出書は、平成31年7月1日から提出することが出来ます。

対象事業者:税込課税仕入れ等を税率毎に区分するのが困難な中小事業者

適用対象期間
平成31年10月1日から平成32年9月30日の属する課税期間
「簡易課税制度の届出の特例」を適用した場合は、事業を廃止した場合等を除き、2年間継続して適用した後に不適用の届出を提出しなければ、簡易課税制度の適用をやめることは出来ません。

売上及び仕入の両方を区分経理することが困難な場合

今までの特例は、税込売上もしくは税込仕入のいずれかが区分出来ている場合でしたが、どちらも区分経理出来ないパターンです。

すべての中小事業者
(卸売業又は小売業の特例を適用しない場合)

「軽減売上割合の特例」と「簡易課税制度」を併用することが出来ます。

つまり、連続する10営業日での課税売上のうち軽減税率対象の課税売上の割合で課税売上高を分けて税額を算出し、それにみなし仕入率を乗じて計算する方法です。

卸売業又は小売業を営む中小事業者

卸売業と小売業は次の①~③のいずれかの方法を選択して適用することが出来ます。

① 「軽減売上割合の特例」+「簡易課税制度」

② 「軽減売上割合の特例」+「小売等軽減売上割合の特例」
  課税売上も課税仕入も「軽減売上割合」を使って計算する方法です。

③ 「軽減売上割合」を50%とみなして計算+「小売等軽減売上割合の特例」
  課税売上も課税仕入も「軽減売上割合(50%)」を使って計算する方法です。

最後に

軽減税率導入にあたって、経理も複雑になってきています。経理が複雑になるということは、それらを集計して計算される消費税額についても、計算が複雑になることが予想されます。

また、税額の計算方法が増えれば、どれを適用したほうが税額が安いとか選択肢も増えるわけで、我々の手間が増えそうな感じはしています。

今回紹介した中小事業者の特例について、税額計算の特例を使える「困難な事情」とは、課税売上と課税仕入れについて税率毎の管理が行えない状況で、困難の度合いは問わないとされています。おそらく、ほぼすべての中小事業者で受けることは出来るのだろうと推測できます。

また、我々税理士が記帳を行う場合、原則として一枚一枚の請求書や領収書で仕訳を行うわけですが、本来は請求書や領収書が必要ですが、効率的に業務を進めるために、カード明細からの記帳も行っています。複数税率が導入されれば、カード明細からの記帳も1件1件の税率を確認する必要があるため、今までどおりとはいかなくなりそうです。(ただ、軽減対象商品をカードで払うかどうかはわかりませんが・・・。)

今まで以上に請求書・領収書の保存に力を入れなければならなくなりそうです。
我々税理士が、お客様より請求書・領収書をすべて回収することが出来ない場合も困難な事情に入るのかは疑問ですが・・・。