所得税

事業所得か雑所得か ~有利な方を選べるわけではない~

こんにちは。

渋谷の税理士 吉田です。

やっと、暖かく感じるようになってきました。
今いる事務所は、外にいるより中のほうが寒く感じるので部屋の中でもダウンを着て仕事をしています。

さて、今回は確定申告ネタですが、これって事業所得なの?雑所得なの?と判断に迷っている方に、決め手となる考え方をご紹介します。

「事業所得」とは?「雑所得」とは

事業所得

簡単に言うと、

農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
 ただし、 不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。

ただ、その事業をやっていればいいかというとそうでもなく、以下の点もよく議論がされるところです。

①自己の危険と計算において独立して行う業務なのか

事業主が自分でリスクを負って、商品売買、サービス提供などを行っているかどうか。

②営利性と有償性を有しているか

もちろん事業として行うならば利益が見込まれるようでないと認められません。
例えば、「自分はゲームを仕事にしている。」という方がいるとしても、ゲームをすることによって利益が見込めるのかということが重要になります。

③反復継続して遂行されて営まれているか

数回程度の取引ではなくて、1年間に何回も継続して取引をするか・しているかどうか。
よく何回が妥当ですかと聞かれますが、規模や業種によってもまちまちだと思います。
小売業であれば営業日にほぼ毎日あるのが望ましいですし、不動産売買業であれば毎日ということは考えにくく、数ヶ月に2~3回はあるのではないでしょうか。

④社会的地位が客観的に認められているか

一般的に考えて「事業」なのか、どうなのか。
それって趣味の世界なんじゃないの?、ということだと難しいと思います。
趣味が高じてほんとうに事業になってしまう場合もありますが、その線引きが難しいところです。給与所得者が休日を利用して何かをするレベルでは副業の範囲内だと考えられます。

雑所得

所得税法で定められている9つの所得区分(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得)に該当しないものが、雑所得となります。

具体的に言うと、給与所得者が休日を利用して行うような趣味により得る収入だったり、フリマやオークションで商品を売って利益を得ている場合やサイト運営によるアフィリエイト収入などがそれにあたります。

税務上の取り扱い

事業所得と雑所得では、税務上のメリットが全然変わってきます。

内容 事業所得 雑所得
損益通算 できる できない
青色申告特別控除(65万/10万) できる できない
事業専従者給与の経費算入 できる できない
損失の繰り越し(繰り戻し) 青色申告ならできる できない
少額減価償却資産の特例 できる できない

損益通算

事業でもし赤字(損失)がでても、他の利益が出ている所得区分と相殺することが出来ます。

例えば、事業所得が80万円の赤字、給与所得が300万円である場合、
300万円ー80万円=220万円 が利益となります。

雑所得では、損失が出ても上記のように相殺することはできません。

青色申告特別控除

事業所得であれば、申請により青色申告を選択することができます。
申請期限は、新規に開業した場合2ヶ月以内に提出してくださいね。

青色申告では、申告・記帳をしっかりする代わりに、事業所得から一定額の控除(65万円または10万円)ができる制度です。

雑所得では、この制度はありません。

(青色)事業専従者控除

一緒に生活をしているような家族に手伝ってもらっていて給料を支払っている場合、事業所得では特別に経費にすることができます。雑所得の場合これが出来ません。

専従者給与は、白色申告と青色申告では経費に入れられる金額に違いがあります。

  青色申告 白色申告
配偶者 事前に申請が必要で、適正な金額であればいくらでも経費にできます。 86万円
その他親族 50万円

純損失の繰り越しと繰り戻し

事業所得の赤字が出た場合に、他の所得と損益通算しても赤字が残る場合には、その赤字を翌年以後3年間繰り越しして、翌年以降の黒字から控除することができます。

また、前年 利益が出ていて、今年 赤字が出た場合には、前年の納付した所得税の全部または一部の還付を受けることが出来ます。(繰り戻し還付といいます。)

少額減価償却資産の特例

10万円以上のパソコンや家具などは固定資産と呼ばれています。

固定資産は、購入した年に全部を経費とすることが出来ません。

法律で定められた期間で徐々に経費にしていきます。(これを減価償却といいます。)
(例)パソコン 4年間 20万円であれば年5万円ずつを経費としていきます。

青色申告者であれば、一つ30万円未満の固定資産を総額300万円まで購入した年に経費とすることができます。

国税不服審判所による公表裁決事例

(平成26年9月1日裁決)

大学の准教授が執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告。

税務署は、当該所得は雑所得に該当し、また、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した費用のほとんどが家事関連費等に該当して必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行った

この准教授の方は、数年に渡って主としてA大学で働く他、B大学で非常勤講師として講義を行ったり、書籍などの執筆・講演等の業務をしていた。

今回はこの執筆・講演等の業務が事業に当たるかどうかということに焦点を当ててみます。

営利性、有償性、反復継続性をもつか否かについて判断

各年分において継続して執筆、講義及び講演の活動を行い、これらの活動から収入を得ていた上に、准教授が利益を得ることを目的とせずに本件業務を行っていたことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、本件業務は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動ということができる。
 したがって、本件業務から生じる所得は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じた所得と認められる。

「事業」といえる程度の規模の活動といえるか否か

自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無

これらの業務による収入は不定期に生じてはいるが、執筆活動に必要と考えられる取材活動や営業活動の経費が生じているので、自己の計算と危険において行われているというべきである。
ただ、業務に必要な取材活動や営業活動については、そのことを裏付ける証拠等は一切なく、これらの取材活動や営業活動の事実は認めにくかった。
 また、歴史法制史関係の原稿を執筆したというが、それを裏付ける書面及びデータは無く、作品タイトルも無く、また、実際に執筆を行ったことによる収入金額もないため、これらの内容の原稿を執筆していたとは認められない。
 以上からすると、本件業務は自己の計算と危険においてされているということはできるが、実際に取材活動や営業活動を行っていたとは認め難いし、執筆についても認められないものであることからすれば、その企画遂行性は、仮にあったとしても乏しいものにとどまっていたと認められる。

精神的肉体的労務の投入の有無について

大学等において平日に週4日程度の講義を行い、それ以外の時間に講演や執筆活動等を行っていることが認められることからすれば、一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていたと認められる。

人的・物的設備の有無について

パソコンやプリンター等の備品を使用して業務を行っていたが、それ以外の設備は有しておらず、また、業務のために使用人を雇っていない。
 なお、赤字のために使用人を雇えないのは普通のことである旨主張するが、ある程度の事業規模があれば赤字であっても人員を配置しなければ事業自体が遂行できないのであるから、使用人の有無を「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かの判定要素の一つとすることは不合理ではない。

職業・経験及び社会的地位について

大学で任期付の准教授として勤務し、同大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていた。

結論

自己の計算と危険において簡易ながら一定の物的設備を整え執筆や講演等の活動を行ったと認められるものの、他方で、その企画遂行性の程度は仮にあったとしても乏しいものにとどまっており、本件業務に投入している精神的肉体的労務も限定的なものであり、さらに大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていたことからすれば、本件業務は、社会通念上「事業」といえる規模・態様においてなされた活動とまではいえない。 

ということで、「事業所得」ではなく「雑所得」とされました。

この方は、毎年収入より経費が多く(事業を赤字)で申告し、大学から得た給与所得と損益通算して所得を実際より少なく申告していました。

今回、「事業所得」から「雑所得」になったため、損益通算が認められずに、毎年申告で還付を受けていた分を返してさらに過少申告加算税や住民税も追加で払わないといけないハメになってしまったようです。